【株式会社JADE:伊東周晃~後編】企業がメディア企業のように振る舞う理由/B2Bは「選択肢に入る地ならし」/複数のレベニューストリーム/指標は投げて返ってくるか #毎日堂マーケティングラジオ
オウンドメディアを集客のためのものだと思ってませんか
オウンドメディアと聞くと、記事を書いてアクセスを集める場所を思い浮かべますよね?株式会社JADEの伊東周晃さんに聞いたら、まったく違う話が出てきました。
JADEさんのスタジオをお借りしての現地収録、前半は長山さんにAmethystの話をお聞きして、後半が伊東さんです。JADEさんには2年ほど前にもいろいろな方に取材させていただいていて、それ以来こちらが勝手に定点観測をしている会社さんでもあります。
メディアという言葉を集客媒体の意味で使っていない
まず前提が違いました。伊東さんの言うメディアは、比較メディアを立ち上げるとかそういう話ではなく、自社のマーケティングをやる組織のことでした。JADEさんの中では長山さんがファウンダーとして技術やツール開発まわりを見ていて、伊東さんが会社のマーケティング活動を見ている。その活動にメディアという言葉を与えているところにこだわりがあるそうです。
コンテンツマーケティングのコンセプトは、一般の企業があたかもメディア企業のように振る舞うことだと伊東さんは言います。テレビ局は放送を見る人からお金を取らずに、見てもらっているオーディエンスの価値を広告という形に変えてきました。一方でメーカーさんは、特にインターネット以前は消費者と直接つながる方法を持っていません。卸があって、代理店を通じて広告枠を買って、お客さんが接触しそうな場所を経由してつながっていたわけです。そこをダイレクトにつなぐ取り組みがコンテンツマーケティングであって、テレビ局がやっていたオーディエンスとのつながりを自分たちで持つ、というアナロジーになります。
オウンドメディアという言葉が流行ったときは、どうしても集客媒体の意味が強かったですよね。そことは発想が別のところにあります。メディアのビジネスは昔から一本足打法ではなくて、購読収入もあれば広告収入もあるし、特定の層が使ってくれているなら通信販売の枠を設けることもある。オーディエンスの価値を何に転換できるかを常に複数考えるもので、そこはアイデア勝負の世界だという話でした。
駅の看板を売っていた人の発想
この発想がどこから来ているのかを聞いたら、最初の就職先が中堅の交通広告代理店、駅の看板の会社だったそうです。渋いですね。
昔の駅のベンチ広告って、地元の医院の名前が入っているようなやつがありました。あれは道しるべなので、売り方も半年売りや一年売りになります。地元のお客さんが買ってくれるのはいいものの、販促媒体にはなれません。ビール会社が夏にビールを売りたいとなったら、二週間単位でクリエイティブを変えたいわけです。ところが駅の看板は、清掃やメンテナンスの担当の方が貼り替えるようなアナログな世界でした。
それを近代化して、山手線沿線で二週間ごとに掲出を変えられるようにすると何が起きるか。駅を全部使えば一日あたりの乗降客数が積み上がってマスメディアとしてのパンチが出ますし、二週間で変えられるならテレビCMと連動できます。地元の医院しかお客さんになれなかった媒体が、アサヒビールやキリンビールが買う媒体に生まれ変わる。売り方一つ、メディアの設計一つで価値がここまで変わるのが面白かったそうです。
駅はターゲットが分かりやすいのもポイントでした。毎日通勤通学で使う人がいるので、マクドナルドも映画もビールも売れるけれど住宅は売れない、という線が明確に引ける。こういう話を年がら年中聞いていた人がウェブのメディアを考えているのだと思うと、話の順番が納得できます。SEOや広告から入った人とは出発点が違いますね。
メディアは社交の場になってきた
JADEさんはSEOのコンサルティングを提供していますが、SEOでお客さんを取っているわけではないそうです。会社の姿をしっかり発信して知ってもらい、そこからつながりが生まれることが多い。BtoBはお客さん側に予算のサイクルがあるので、その時に選択肢に入ることが大事で、選択肢に入るまでの地ならしをずっとやっているイメージだと言っていました。
そのうえで今のメディアのありようを、伊東さんは社交の場だと表現していました。このコラボレーションも社交ですよね、と。JADEさんが発信をすると届く人はいるけれど、そこから爆発的に広がるわけではない。私と一緒にやらせてもらうことで、JADEさんとつながっていない人に私経由で知ってもらう契機になる。社交はギブアンドテイクなので、自分たちもいい社交の場を持っている必要がある。だから社交場たる鹿鳴館としてのオウンドメディアを持つ、という言い方をされていました。
余談で出てきた話が分かりやすかったです。昔のテレビ番組で、ホンダとトヨタのトップ営業の方を比べる企画があったそうです。トヨタの方はハードセールスをする人で、ホンダのディーラーの方はまったくセールスをしない。代わりに何をしているかというと、ショップをいつも綺麗にしていて、トイレまで整えて、また来たくなる場所にしている。ハードに売る局面も必要だし、整える社交的な要素も必要で、両方要るという話でした。
メディアを社交場と捉えると使い方のイメージがガラッと変わります。場としての価値がないといい人は集まってきませんし、維持もしないといけない。今は場がありすぎてどこへ行けばいいのか分からないので、ここにいれば安心だろうという場を作れるかどうかかなと思います。
買わない人ほど大事な顧客
伊東さんはJADEニュースレターの100号で、買わない人ほど大事な顧客だと書かれていました。もとはContent Marketing Worldというカンファレンスのキーパーソンであるロバート・ローズさんの言葉で、その認定プログラムも何年か受けていたそうです。
考え方としては、すべてのオーディエンスを顧客として見るということです。買うか買わないかは、今の自分たちのビジネスモデルという落としどころにハマるかどうかだけの話でしかない。コンサルティングではハマらない人でも、Amethystというツールならお客さんになるかもしれないし、有料セミナーならなるかもしれない。要はこちら側の引き出しがいくつあるかですね。メディア企業のレベニューストリームが複数あって、通販のお客さんにはなるけれど広告の出稿主にはならない、というのと同じ構造です。
毎日堂をずっとやっていても、これを見たから発注しましたという話はあまりありません。それでも何かのときに思い出してもらえる場所として残っている。長く見ないと成立しない考え方ですが、引き出しを何個か持っておけば来やすくはなりますね。
効果の測り方はアナリティクスの外にもある
すぐに換金できるかというと難しいので測り方も変わります。伊東さんが見ているのは、自分たちが関係を作っているオーディエンスとの関係値が健全か、あたたまっているか、もっと話を聞きたいと思ってもらえているかどうかでした。
具体的にはニュースレターでたまにミートアップイベントをやるそうです。ほぼ実費ながら有料にしていて、参加費を払うことと、住んでいる場所から交通費をかけて来ることが一種の熱量になる。その積み上がり方を見れば今の状態が分かりますし、JADEコンのような大きめの募集にちゃんと集まっていただけるかどうかは、ニュースレター単体ではなく会社全体として何かを形成できているのかを測る材料になります。
PVやクリックやコンバージョンではなく、投げたときに返ってくるかどうか。話を聞きたいと思ってもらえている状態をどう測るかについては少しクリエイティブである必要があって、アナリティクスの画面の中にあるメトリクスとは限らないので柔軟に考えていい、というのは救われる人が多い話かなと思います。
立ち上げに要るのは予算ではなく目論見
そういう経験がない人はメディアをどう作ればいいんでしょうね、と聞いてみました。返ってきたのは、めっちゃ儲かるものではないという前提と、目論見がすごく大事だという話でした。
前職でグルメ系の編集メディアを立ち上げたときは、趣味でグルメブログを書いている方に寄稿してもらう形にしたそうです。本業のライターさんではなく、楽しくて書いていて反応があるのも楽しい人たち。原稿料は払えない代わりに、会社公認のグルメブロガーというステータスを名刺という形で作って、社会的報酬として等価交換をした。これでやれれば二年はなんとかなるだろう、という目論見でスタートして、結果的に五年続いたそうです。
途中で狙ってうまくいかなかった話も聞けました。そのブロガーさんがうまいと言ったお店だけを探せる専用アプリを作ったものの、課金型にしたのがはまらなかった。会員登録が必要なものにしていたらもっと使われたかもしれない、と振り返っていました。コストに代替できる自社の強みで交換して立ち上げて、しばらく走らせてオーディエンスが固まってからマネタイズに挑戦する。うまくいく場合もいかない場合もある、という順番ですね。広告に投下するコストと比べたら少ないので、続けられるならやってみる価値はあるかなと思います。
本質はオーディエンスマーケティング
AIがこれだけ出てきて、メディアの役割もまた変わりそうです。この先をどう見ているのか聞いたら、自分の思っていることはずっと変わっていない、という答えでした。
コンテンツマーケティングという言葉はある意味ミスリーディングで、言葉どおりのコンテンツマーケティングができるのは映画やビジュアル作品のようにコンテンツそのものが売れるところだけです。多くの会社がやっているのはコンテンツをフックにしてオーディエンスを集めるマーケティングなので、本質はオーディエンスマーケティングだと。ソーシャルメディアもブログもニュースレターも、表層的な方法論の違いでしかありません。
例として出てきたのがスターウォーズでした。欧米のコンテンツマーケティングではみんなあれを目指したいという話になるけれど、当時のフォックスの役員はこんなものは売れないと思っていて、チケットの収入さえ確保できればよく、それ以外の関連ビジネスはルーカスのものでいいという握りだったそうです。結果としてマーチャンダイジングの収益は全部ルーカスに入りました。ルーカスが見ていたのはファンで、作品を好きになってくれた人は映画以外のいろんなものを買ってくれる。スターウォーズは誰にも作れませんが、その奥にあるのはファンをどれくらい持てるかという話です。
そしてファンをもっとゲスな言い方をすると名簿だ、というところに着地しました。大福帳ですね。いい関係の名簿をどれだけ作れるかという、昔からある話の見せ方が変わっているだけかもしれません。
場を持っている人が強い
メディアという言葉のイメージが先行して、集客の道具としてしか考えられなくなっているケースは多いと思います。ファンイコール名簿だと言い切ってしまえば、やることはかなりはっきりしますね。嫌われるかもしれないと伊東さんは笑っていましたが、個人的にはこれで整理がつく人は多いんじゃないかと思っています。
社交の場を作るのは、いろんなところに顔を出して情報を提供してという地味な積み重ねなので、数字にはなかなか出てきません。それでも場を持っている人のところに人は戻ってきます。自分のメディアが誰かにとって心地よい場所になっているかどうか、たまには数字ではなくそこを見てみようかなと思いました。
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