毎日堂マーケティングラジオ 宮脇さんと中本さん回の記事バージョンです

B2Bマーケティングの「正解」が消えた?
株式会社unnameの宮脇啓輔さんと中本裕之さんにB2Bマーケティングについてお聞きしました。お二人は表面的な施策論ではなく、組織や顧客心理の深いところまで踏み込んで考えている方々で、聞きながら自分の中でも整理されていく感覚がありました。今日はその対談を踏まえて考えたことを書いてみます。
「Web広告で安く釣る」時代は、もう戻ってこない
10数年前のWeb広告は、今思うと冗談みたいに安かったんですよね。CPMが「0.02円」みたいな単位で語られていた時期もあって、とにかく出せば誰かしらクリックしてくれる、そんな時代でした。
今やMeta広告のCPMは5,000円くらいまで上がっています。これは銀座の地価と同じで、もう昔の値段には戻りません。「昔は安かったのに」と言っても始まらない話で、今の前提でビジネスを組み立て直すしかない。
それに加えて、検索結果の上にAIの回答が出るようになりました。ユーザーがサイトをクリックしなくても答えが手に入る。一方で、AIで量産された中身の薄いホワイトペーパーがあちこちに転がっていて、ダウンロードしてもガッカリ、ということが増えてきました。
「ホワイトペーパーのダウンロード数を増やす」というKPIで動いているチームは、たぶん今、かなりしんどいはずです。数字は出ているのに商談につながらない。コストだけが積み上がっていく。これは見えにくい形でじわじわ効いてくる「増税」のようなもので、気づいたときには結構な金額が消えています。
「ザ・モデル」は、本当に万能なのか
B2Bの世界では「ザ・モデル」が長らく教科書扱いされてきました。マーケ、IS、FSと役割を分けて、それぞれが自分のKPIを追いかける。きれいな絵に見えます。
宮脇さんが指摘していて「あぁ、確かに」と思ったのが、後工程に行くほど人材の質が下がりがちという話です。入り口のISが一番コミュニケーション上手で、お客さんの期待をぐーっと上げる。ところが、その後を引き継ぐ担当者の解像度が追いつかなくて、商談の場で「あれ?聞いてた話と違うな」となる。
これは、お客さんからすると最悪の体験です。期待値を上げられた分だけ、落差で失望が大きくなる。
宮脇さんはこれを「グランメゾン東京」に例えていました。前菜からデザートまで、全員で一つのコースを作り上げる感覚。前菜だけ味が濃くてメインがぼんやりしていたら、お店の評価は下がるに決まっています(グランメゾン東京を知らなくてあとから調べました)。
KPIを「リード数」ではなく「有効商談数」や「受注数」にして、チーム全体で同じものを見る。当たり前のようでいて、これがなかなかできない。部署ごとに数字が違うと、どうしても部分最適になってしまいます。KPIを細かく分けることが、結果的に会社を弱くしているケースは結構あります。
AIをどう使うかより、何のために使うか
AIで業務は確かに楽になります。これは事実です。ただ、楽になることと成果が出ることは別の話で、ここを混同するとおかしなことになります。
中本さんがAI活用のレベルを3段階に整理していたのが分かりやすかったので、紹介します。
レベル1:要約とかドラフト作成みたいな、ちょっとした業務改善
レベル2:チームのワークフローに組み込んで、流れを変えるレベル
レベル3:自社のフォルダや独自資産と繋いで、自分たちにしか出せないアウトプットを作るレベル
たぶん多くの会社がレベル1で止まっています。それ自体は悪いことではないのですが、「AIを入れたから成果が上がるはず」という期待だけが先行すると、現場との温度差がしんどくなります。
ここで気になるのは、若い人にAIを丸投げするのは本当に避けたほうがいいという点です。試行錯誤の過程をスキップさせると、出てきたものが良いのか悪いのか判断する目が育たない。AIは「それっぽい答え」を返すのが得意なので、判断する側がしっかりしていないと、それっぽいまま進んでしまいます。
それと、レベル3に行きたいなら、結局のところ社内のデータやフォルダを整理するという地味な作業から逃げられません。ここをすっ飛ばして「AIで何かできないか」と言っても、たいてい何もできません。
「今すぐ客」を追いかけるのをいったん休んでみる
最近の現場感覚として「今すぐ客」を奪い合うのは、もう限界に来ているように思います。みんな同じプールで魚を取り合っているので、コストは上がる一方、釣れる魚は減る一方。
逆説的なのですが、「今すぐ客は諦める」くらいの覚悟で、思い出してもらうための活動に時間を使ったほうが、結果的に強いのではないでしょうか。
ポッドキャストでもブログでも、メルマガでもいい。お客さんが課題にぶつかった瞬間に「そういえばあの人に聞いてみよう」と思い出してもらえる。この第一想起というやつは、一朝一夕には作れませんが、いったん作れると競合が真似できない資産になります。
数字に現れにくいので評価しにくいのですが、長くやっている会社ほどこういう見えない積み重ねで仕事が回っているケースが多いように感じます。
ホワイトペーパーじゃなくてFAXということもある
これは現場でよく感じることですが、最新の手法が最善とは限らない。
地方の不動産屋さんや自動車関連のお客さんだと、今でもFAXや電話が一番効くケースがあります。「FAXなんて時代遅れ」と笑う人もいますが、お客さんの机の上にちゃんと紙が届いて、それを見て電話をくれる。これ以上に確実なタッチポイントは、実はそんなにありません。
ホワイトペーパーを必死に作って、ダウンロードされて、その後フォローメールを送って……というプロセスより、FAX一枚のほうが商談までの距離が近いことだってあるわけです。
「最新ではない」というだけで切り捨てる風潮には、違和感があります。お客さんが反応する手段が、その会社にとっての正解です。手法から入るのではなく、お客さんから入る。当たり前なのですが、これが意外とできていない。
数字の向こう側にあるもの
マーケティングの手法は、ファッションのように巡るところがあります。全員がデジタルに行くとアナログが見直され、アナログが飽和するとまたデジタルに戻る。流行を追いかけるだけだと、永遠にその波に翻弄され続けます。
宮脇さんと中本さんと話していて印象的だったのは、お二人とも数字一辺倒の人ではないということでした。中本さんはゴールデンウィークに鎌倉の新緑の中でPCを閉じて自社のことを考え直す、と言っていました。宮脇さんは3冊目の著書を書いている。デジタルマーケの現場にいる人ほど、デジタルから少し離れる時間を意識的に作っているのは、たぶん偶然ではないのだと思います。
結局のところ、お客さんとの関係を作っているのは管理画面の数字ではなくて、その向こうにいる一人の人間との会話です。AIは便利な道具ですが、道具に使われて自分の頭で考えなくなったら本末転倒です。
明日、机に向かったときに見るべきなのは、KPIシートよりも先に、目の前のお客さんが今どんなことで困っているのか。そこから始めるしかないのではないかと、改めて思います。
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